気付いてよ
だから、その時奏に危ないだろ、って言ったことも俺の中ではいつも通りで、本当に軽いノリのつもりだった。
でも、奏に睨まれて正直焦った。
俺なんか気に障ること言ったか?
理由を尋ねようとしても、その理由を知っている唯一の人物からの吐き捨てるようなセリフにあっけを取られてしまった。
そして、バタンッ、という音で我に返ればそこにその人物はいなくて、俺一人だけだった。
なんなんだ、あいつは。
しばらく今さっきまで奏がいた方向を向いたまま、俺はぼーっと突っ立っていた。
ふと、視界にエレベータから降りてきた人が入ってきた。
このままじゃ変な人に思われそうだから、俺は奏が消えていった隣のドアの鍵を開けて中に入った。
今日は家に誰もいない。
妹の理恵の学校が創立記念日かなんかで休みだから、2人で買い物に行くと昨日自慢された。
とりあえず自分の部屋に入ってベッドに寝っ転がる。
天井を見つめながらさっきの奏のことを思い出した。
理由は分かんないけど、とりあえず謝った方がいいか?
いや、機嫌の悪い時は俺の経験上放っておいた方がいい。
まぁ、明日もどうせ会うし。
っていうか、会おうと思えばいつでも会えるか。
今じゃなくてもいいよな。
そう思った俺は、急に襲ってきた睡魔に抗うことなく眠りについた。