気付いてよ

今では、ゲーテの詩集や、名言がとても好きになっていた。

でも、今日はそんなお気に入りの本を手に取ってみても、全く頭に入っていかない。

パタリ、と本を閉じて、ふと窓の外に目をやった。

外は大分日が短くなった所為か、つい一週間前のこの時間より、さらに暗くなったように感じた。

そろそろ行こうかな。

重い重い腰を上げて立ち上がる。

本を元に戻すために、ページをぱらぱらと捲りながら本棚に向かう。

その時一つの格言が目に入る。

“おまえの本当の腹の底から出たものでなければ、人の心を動かすことは断じて出来ない”

本棚の数歩前で立ち止まる。

もし、私が本当に朋を好きだということを、今日伝えることが出来たら、少しは朋の心を動かすことが出来るかもしれない。

心を動かすっていうことは、もちろん、私を好きになって貰うことだけじゃない。

朋の来る者拒まずな性格を少しでも改めてくれたら、それだけで私は救われた気持ちのなる。

自分の都合の言い様に解釈してしまったかもしれないが、なんだかゲーテに背中を押してもらった気がして、そのまま図書室を後にした。
< 67 / 140 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop