夜中散歩
『風邪ひくから、窓閉めて、消毒してばんそうこう』

淡白すぎるそのメールに笑いが起きる。
少しだけ体を乗り出して、周りを見てみると真下に拓の姿があった。
そっと手を振って、すかさず私も返事を書く。
『分かったから、早く家に帰ってね』
送信ボタンを押して少し経つと、メールが届いたみたいで。
メールを待っている間、上を見ると月が満月なことに気がついた。

『今日満月なんだね。知らなかった』
すると、拓も上を見る。
『ほんとだ』
会話をしてるみたいな、メール。
声は聞こえないけれど、そこに居るだけで嬉しいと思えた。

窓を閉めて、服を着替える。
言われた通りに転んだところを消毒する。
大きな絆創膏がなかったから、小さい絆創膏を三枚くらい重ねて貼る。
ベッドに入って音楽プレーヤーの電源を入れてイヤホンを耳に差す。

まだ家には着かないかな。
なんて考えながら日記を書く。
これが私の日課で、痛みを言葉にする作業。
口では伝えられないこと。伝わらないこと。

人と話すのはあまり得意じゃない自分の、唯一の自分の気持ちを吐き出せる場所。
ずっと続けてきたことだから、毎日書かないと気がすまない。
1行でも10ページでも書いて、その日思ったこととか、考えとかを書く。
ぐしゃぐしゃの考えでも、一度どこかに吐き出すと、意外に落ち着くものだから。



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