夜中散歩
急いで制服に袖を通して、髪を整える。
窓から外を見ると、まだ拓は着いていないようだった。
下へ降りてリビングに入ると、私以外の家族が全員揃っていた。
いつもとは雰囲気が違うその部屋から、逃げるようにドアを閉めると、
「満月」
その声に身震いがしたのを隠して振り返る。
「・・・起きてたんだ」
満月の兄と言える人。
一人暮らしをしているはずなのに、なぜか最近家に帰ってきている。

「体が鈍るからな、それよりその怪我」
兄が自分のあごを触る。
「あぁ・・・ちょっと転んじゃって」
ありきたりな嘘をつく。

居心地の悪い空間を遮るかのように、携帯が鳴った。
携帯を開くと、『着いた』のメール。

『分かった!』
それだけ返して携帯を閉じると、兄と目が合う。
急いでそらすと兄は笑った。
何も言わずに立ち去ればいいだけの話なのに、足が動かない。
過去は振り切りたいはずなのに。
いざというとき、追い詰められたら動けないのが人間だ。
「お母さん、学校行ってきます!」
そう言うと、急いで家を出た。


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