「好きになるはずなかったのに」
「何?露子まだ行き詰っているの?」
今日の冬実は、花柄のシャツに
、ピンクのエプロンの裾からはスカラップの白いスカートがのぞき、赤いニットの花のピアスが悪戯に揺れている。
「ありがとう……
もうどうにもこうにも……。
私の周りにはトキメキがないのだよ。
もう無理なんだ……
二十九歳にもなって、
ドキドキできる恋愛少女漫画なんて!」
露子は、もう一年以上プロに手をつけさせていない、アシスタントに染めさせた、藁の様な髪を両手で絞り、納豆みたいにした。
「露~?トキメキに歳は関係ないって!
ほら!露だってトキメクトキメク!」
そう明るく、両手をヒラヒラしながら、
冬実は自分の胸もとにつけていた、
ピアスと同じ素材の真っ赤なコサージュを、
ぶすっとした面の露子の髪に絡ませた。