白銀の女神 紅の王
それよりも目の前の男だ。
単体で動いているという事は隠密ということか。
しかも狙いは国王である俺ではなくただの妾のエレナ。
ボスの所へエレナを連れて行くのが目的だと言う。
何か嫌な予感に胸がざわつく。
何にしろこの後宮に侵入するとはいい度胸だ。
この俺の領域に入った事を。
そして俺のモノを奪い去ろうとした事を後悔させてやろう…
そう思ったのも束の間―――
エレナを連れ去ろうとする男との距離を詰めようとした時。
短剣が滑りエレナの首筋から一筋の血が流れれば、動こうとする体はピタリと止まった。
銀色の瞳に涙を溜め、痛みに歪むエレナの表情が頭にちらつく。
一歩も動けないのはエレナに今死なれては困るからだ。
そう冷静に考えながらも、内心は大いに焦り、悪態は口に出ていた。
「大人しく見ていろ」という屈辱的な男の言葉にギリッと口を噛みしめ、その言葉に従うようにその場から動かない。
否、動けなかった。