白銀の女神 紅の王



今までの俺なら迷いなく動けた筈だ。

誰を人質に取られようと。

どんな状況だろうと。



けれど……

今は足が床に張り付いたように動けない。

エレナの首筋からつたう血を目の当たりにすると、体が動く事を拒否する。

このままエレナが連れ去られるのを見ているだけしか出来ないのか。

剣に添えた手に力を込めながら、どんどん遠ざかって行く男とエレナを見ていると―――



「ッ………」

エレナの小さな悲鳴が上がる。


何をしているんだ……?


目の前には、男の力に逆らうようにして踏みとどまるエレナの姿。

見るからに弱々しく逆らう事を知らなそうなエレナが見せた抵抗に、目を大きく見開く。

それに驚いたのは俺だけではなかった。

男もエレナの抵抗に苛立ちながらも焦っているようで、感情的に「おい、なぜ止まる」と叫んでいる。


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