白銀の女神 紅の王
しかし、何故か短剣は首筋の表面を僅かに滑っただけで、深く抉られる事はなかった。
抵抗すればエレナに危害を加えると言っていたにも関わらず何故だ?
エレナが本当に抵抗するとは考えなかったからか?
いや今は男がすんなりとエレナを離した理由など考えている暇などない。
こちらへ駆け寄るエレナの背後には同じくこちらへ向かってくる男。
剣に添えていた手を素早くずらし、短剣に手を伸ばした時―――
「シルバッ……!」
その声に心臓が止まるのではないかと言うほどに息を飲み、短剣に伸ばした手が止まる。
初めて名を呼ばれたのは、聞いているこちらの方が胸が締め付けられるほど切なく、悲痛な声だった。
チッ………
銀色の瞳から零れ落ちる涙に我に返り、エレナを捕らえようとする男へ投げつけた。
ザシュ――――
「ぐはッ……!」
短剣は狙い通り男の左肩へ突き刺さる。
同時にエレナの手を取り抱き込んだ―――