白銀の女神 紅の王



あの時は、とにかく必死で。

目の前にはシルバしかいなくて。

助けを求める事の出来る人は、シルバただ一人だったから。



ただ、それだけだったのに……




咄嗟に口にした彼の名を読んだ時―――

シルバまであと一歩と言う時に、力強い腕に引き寄せられ、その胸におさまった時―――

何故か涙が抑えられなかった。

目の前にいたのがシルバじゃなかったら、命を掛けて男から逃げ出そうと思わなかった気がする。



何故だろう…


シルバの名を読んだ時に、胸が苦しくなったのは。

力強い腕に抱きしめられていると落ち着いたのは。

その胸の中にずっといたいと思ったのは。



シルバが離れる時に、「行かないで…」と言葉を口にしようと思ったのは……



その答えを考えるが、もやもやと霧がかったように見えない。

ジェスやニーナ、ウィルやデュークに対してでもない。

今までにない感情が、確かにここにある。


胸に手を当て、考えていると……




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