白銀の女神 紅の王
皆が寝静まる深夜――――
まだ明りの灯る執務室。
シャッ――――
シャッ――――
クソッ……
気が散る……
心の中で悪態をつき、筆を走らせていた手を止める。
執務室には自分の他に誰がいるわけでもない。
昼間の様に、入れ替わり立ち替わり家臣が入ってくるわけでもない。
けれど、気が散って集中できないのだ。
頭の片隅にちらつくのは、昼間のエレナ。
あの女の試験が終わった直後、突然立ち上がったかと思えば、目も合わせず立ち去った。
気に入らない……
あの事件以来、夜になれば後宮へ戻る生活を送っていた。
ウィルに調査させ、男を追わせているが、依然としてつかまっていない。
警護の固くなったこの王城に、再び侵入する事は考えづらかったが、気は抜けない。
何より、襲われた本人が怯えていた。
男から逃げる時は涙を見せていたものの、その後は涙一つ見せず。
大丈夫だと言わんばかりに見せる強がりに、苛々とした。