誘拐犯は私の彼氏!?
激しい衝撃と共に、冷たい波が僕を襲う。
上から、横から、後ろから。
波に揉まれ、ゆっくりと海に沈んでいく。
そんななかで、僕は意識を手放すつもりだった。
‥‥‥でも、僕はそんな状況でも、意識を手放すことは許されなかったんだ。
誰かが、僕の手を引いて、水面へと引き上げたから。
冷たい海のなかで、その手だけは暖かく、しっかりと僕の手を引いて、けして離さなかった。
その手に導かれ、僕の身体は、だんだん海岸に引き戻されていく。
闇のなかにある、たったひとつの希望のように。
その手は僕を、光のあるところへと運んでいく。
「………邦人。邦人!」
海岸から微かに聞こえる、ひどく懐かしく優しい声。
僕を呼んでくれている、お父さんの声。
光の中には、お父さんがいた。
お父さんの大きな手が、僕をそっと救い上げて。
強く、抱き締めてくれたんだ。
それと同時に、僕を導いてくれた手は離れ、波にのまれて見えなくなった。