幸せタクシー
医者:「…診たところ、頭を強打し、右足首は靭帯損傷。その他に目立った外傷はありません。…―跳ねられた、と言うよりは巻き込まれた、と言ったほうが良いのかもしれません。」
巻き込まれた?
けれど、記憶のカケラで見た、あのピカッと光ったものが車のライトだったら…
少し疑問を抱き、記憶を必死に蘇らそうと、考え巡らせる。
ふうっと医者は息を吐くと、悲しい表情を浮かべて口を開いた。
医者:「―…しかし、―…もうひとりは、間に合いませんでした。」
「…。間に合わなかった…?」
医者:「ええ。救急隊員が駆け付けた時には、もう亡くなっておられました…。今、その子の御家族の方々と内の看護婦と話しておられるでしょう。…その子にお会いになられますか?」
―…っ
ゾクゾクと身体が震え出す。
怖くなって、首を横に振る。
医者:「そうですか。詳しいことは、話せませんが―…。車の運転手は警察と話している頃でしょう。…しばらくすれば貴女の元にも、警察が事情聴取に来られるでしょう。」
コクンと頷くと私は立ち上がった。
「…―帰ります…。」