恋ノ神
『そう言うわけじゃないんだけどな。』
私はその言葉が先ほどから引っかかっており、ついには咲夜をつける事にした。
一通りの少ない所にあるらしい咲夜の家は太陽光発電の板が屋根に貼り付けてある今風の家だ。
つい10年前までは入母屋式の家も残っていたのだが、もうほとんど残っていない。
咲夜が家に入った所で、私は玄関の前で立ち止まる。
人間の目に入るように設定すると、それと同時にまた咲夜が出てきた。
ボールを持っていったため、サッカーでもしに行くのだろう。
私はあらかじめ擦っておいた咲夜のノートを手にベルを押す。
「はーい。」
出てきたのは咲夜の母親らしき女性。
所々暗そうな雰囲気を漂わせているが、まだ明るさがある。
「誰?」
「あ・・・咲夜君が忘れていったノート・・・」
「ああ、アイツ忘れてきたのか。どうもありがとう。」
優しく笑った顔がどこか見覚えがあると思ったその時、私の中にあった古い記憶が蘇る。
約20年前に私が叶えた恋の対象者・・・
「蒼・・・」
そう、五十嵐 蒼だ。
「え?何で私の名前・・・」
やはりそうだ。
だから懐かしく感じたのかと、私は納得する。
「あ、咲夜君から聞いてたので・・・」
私はとっさに嘘を付く。
というより、すぐばれると思うが、一時のしのぎだった。