恋ノ神

蒼と来るとどうしても浮かんでくる顔がある。
もしかするとと思い、私はあの人物の名を出した。

「咲夜君のお父さんって、出文 瀧太郎さんですか?」

それを聞くと、やはり蒼は驚いた顔をする。

「あ、咲夜そんなことも言ってたんだ。」

意外そうな顔で蒼が言う。
つまり、瀧太郎と蒼は結婚し、その2人から咲夜が生まれた事になる。
すると、向こうの部屋から男が1人出てくる。
瀧太郎だろう。

「おーい、誰と話してんのー?」

父親になったと言うのに未だに高校生のような楽観的な話し方をする男は、髪は短く切ってあるが、横と前の髪がストレートで長い。
整った顔を見て、私は彼が瀧太郎である事を確信する。
瀧太郎はこちらに出てきて私を見ると、「あ」と呟いた。
目をカッと開き、ポカンと口を開けている。

何かまずい事をしただろうかと疑問に思ったが、彼らを担当したときのことを思い出し、私もハッとする。

「君・・・どっかで会った?」
「さ・・・さぁ。」

いや、私と瀧太郎は間違いなく会った。
蒼と瀧太郎の恋を叶えた時、蒼を助けさせるために瀧太郎の帰り道に「蒼の後輩」として現われた時があった。
すっかり忘れていたと油断していた。

「咲夜の忘れ物届けに来てくれたんだよ。同級生なんだって。」
「・・・そっか。」

納得していなさそうな顔で瀧太郎が言う。
まあ、納得できない理由も分からない事はないだろうが。
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