恋ノ神
煙に映ったのは雨の日の学校。
寂しいほど静かな廊下に幼い頃の晴ともう1人、髪の毛を短く刈り込んだ少年が立っている。
目は小さく吊り上り、何となくではあるが、瞳には卑劣さが宿っている。
「誰アイツ。」
「井上 宙人(ひろと)。どうやら、今回のイジメは奴が主犯らしい。」
確かに悪そうな顔だ。
何を仕出かすつもりだろうと思いながら、煙に映った二人を見る。
晴は焦ったような顔で下を向いており、その様子を宙人は意地悪そうな目で見ていた。
「何・・・?」
「はぁ?何じゃねーよ、『何でしょうか?』だろ、死人が!」
数時間前の説明の通り、いじめが嫌いな私はカッとなって立ち上がる。
「アイツッ・・・ぶっ殺す!」
「落ち着け。これは過去の事だ。仇討ちが最優先ではないだろう。」
「クッソ・・・!」
「あの少年を滅多打ちにしたいなら、後で存分に痛めつければいい。以来が先だ。」
「・・・分かった。」
こういう時だけいいことを言う男だな。
私はブツブツと言いながらしぶしぶ画面を見る。
「そういえばさー、綾織って五十嵐が好きなんだってー?」
「・・・違う。」
晴の声に焦りの色が見えた。
私には分かる。晴は咲夜に好意を抱いていたのか。
違うと言うのは嘘だ。
「何が言いたいの?」
「ああそうそう。お前って、姉貴が腕が無いからいじめられたんだろ。」
(誰がいじめてると思ってんだよ)
晴が悪態をつく、心の声が聞こえた。
「お前をいじめるように仕向けたのってさー、五十嵐なんだよ。」