あひるの仔に天使の羽根を

・詐術 桜Side

 桜Side
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正直、煌の潜在能力にぞっとした。


紫堂の者でもないのに、司狼からあんな炎向けられて…私より素早さに欠ける煌なら、絶対焼き尽くされる。

だから助けに入ろうとした私の腕を、緋狭様は掴んで静かに頭を首に振り。


「あいつを信じよ。切り抜けるだけの基礎は元よりある。後は…精神的なものだ。あいつが雑念を取り払い、逃げずに闘う覚悟をすれば…負けはしない」


卑屈さ故の"愚鈍"だと。


緋狭様はそう言うけれど、私にはそんな悠長なことを言っている場面には思えなくて。


日頃欠点ばかり目につく馬鹿蜜柑。


闘う気になったからと言って、突然威力が増すわけではないだろう。


私達が居ることも、旭という子供も榊も居なくなったことすら気づかない馬鹿蜜柑に、切り抜けられるだけの力はないように思えたのだ。


「桜、煌を信じよ」



信じる。


馬鹿蜜柑を?


目の前では、本当にぎりぎりで司狼の攻撃を躱した姿。


体術なら何とかなるかも知れないけれど、力なんて…魔法なんて、私達には無縁なものなのだ。


体術で力に応戦など出来やしない。


私達の長年の鍛錬も技術も経験も、非物理的な力の前には無にも等しいのだ。


言わば、対極の世界に存在するもので。


そして司狼が再び、炎の龍を出した。


私は無意識に裂岩糸を握りしめる。


もしも。


馬鹿蜜柑が危ない時は、緋狭様を押しのけてでも私がこの糸で助ける。


そんな覚悟をしていた中、


「くっそおおおおお!!」


突然、咆吼した煌の身体が発光した…ように思えた。







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