逢いたい夜は、涙星に君を想うから。



誰かを大切に想えば思うほど、失うことを考えちゃうから。



父親が、お母さんと幼いあたしを捨てた時みたいに。



親友に裏切られた時みたいに。



イジメにあっていた時も、普通のクラスメートだった人たちが、ある日を境に悪魔に変わった。



傷ついて、苦しんで。



ほんの少しのことで不安になったり、臆病になった。



大切な人に裏切られるくらいなら、



大切な人を失うくらいなら、



初めから大切な人なんて作らなければいい……そう思ってた。



だけど、恋をしてしまった。



優しい君に。



気づいたら好きになってた。



いつのまにか目で追いかけてた。



この想いは密かに。



そう。伝えることもなく、叶うこともない。



心の中で抱えていけばいい。



そんなふうに思えたのはきっと、あたしにはまだ“大切な人”がそばにいてくれたから。



あたしを愛してくれるお母さんがいたからだ。



いままで、つらいことたくさんあったけど、心のどこかで思ってた。



“あたしにはお母さんがいてくれる”



あたしは何があっても、どんなにつらいことがあっても。



本当はひとりぼっちじゃない。



お母さんがいるだけで、あたしの心を支えてくれてた。



でも、そのお母さんまでいなくなった。



あたしを置いて、お母さんは死んでしまった。



あたしは結局、ひとりぼっちになる。



そういう運命なんだって思った。



だから橘くんのことを大切に想う気持ちが



大きくなればなっていくほど、怖かった。



きっとまた、失ってしまう。



あたしはもう傷つきたくない。



どれだけ傷ついても、傷つくことには慣れない。



傷つくのが怖い。



好きな気持ちと、これ以上もう好きになりたくない気持ち。



大切に想うのに、大切な人を作りたくない。



そばにいたいのに、離れたい。



助けて欲しいのに、助けてって言えない。



あたしの想いは、ずっとこうして矛盾していたんだ。
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