逢いたい夜は、涙星に君を想うから。
そのあとは、テーブルの上のケーキを食べながら、陽太と陽葵ちゃんの両親の話を聞いていた。
本当に仲がいい幸せそうな家族で、話を聞くたびに羨ましかった。
陽太にも陽葵ちゃんにも、あたしの家のことは何も話していない。
お母さんが死んだことも、言っていない。
過去のことも、いまの家のことも、ふたりには知られたくなかった。
もし知ってしまったら、ヘンに気を遣わせてしまうだろうし、気を遣われるのも嫌だった。
だから、ずっとうまく誤魔化してきた。
これから先も、ふたりに家のことを話すことはないと思う。
「ホント、仲良し夫婦だよね。ケンカすることあるの?」
「大ゲンカは、お兄ちゃんが生まれる少し前にしたらしいんよ」
「それ以来、大ゲンカしてないとかすごくない?逆に何が原因で大ゲンカしたんだろうね」
「お父さんは男の子が生まれたら“太陽”、女の子が生まれたら“向日葵”って名前にしたかったらしいんよ」
「へぇ~そぉなんだぁ」
太陽くんと向日葵ちゃんか。
「やけど、“たいよう”も“ひまわり”も読みが4文字やけん、お母さんは3文字がええ!ってなって、大ゲンカしたらしいんよ。ほんま、くだらんよね」
「ふふっ。くだらなくないよぉ。名前って大事だもん」
「大ゲンカのあと話し合うて、お兄ちゃんの名前は“陽太”に決まったんよ」
うまくまとめたなぁ……。
太陽の文字を逆にして陽太。“ひなた”で3文字だし。
「じゃあ……陽葵ちゃんも、ホントは向日葵ちゃんだったかもしれないんだ?どっちの名前も可愛いからいいねっ」
「凜ちゃんの名前は誰が考えたん?」
「ど、どーだろ……。聞いたことないけど」
話の流れ変えなきゃ。家族のこと何も聞かれたくないし。
「で、でもさっ。陽太ってホント、名前のとおり、太陽みたいな人だよねっ」