逢いたい夜は、涙星に君を想うから。



幸せな夢を見る余裕も。



未来への希望も。



いまのあたしには何もない。



なんで生きてるんだろう。



誰のために生きてるんだろう。



そんなことも、ふと考える。



考え出すと、すべてが嫌になる。



だから、いまはただ、あの家から逃げ出すことだけを考えた。



高校を卒業して、早くあの家から出ていくこと。



働いて、ひとりで生きていくこと。



いまはつらくても、我慢して、耐えて。



時間が過ぎていくのを待っている。



弱い自分に負けそうになるとき、あたしの心を支えてくれるのは星砂のキーホルダー、心の中にいる橘くんの存在だった。



「お兄ちゃんが太陽で、凜ちゃんが星?……彼は?」



「え……?」



「橘くんは何?凜ちゃんの心の支えなんよね?星をそっと優しく見守る月……?」



いままで考えたことなかったけど……。



「そうかもね。月のような存在かも」



まるで月が星を見守るかのように。



夜に堕ちたあたしのそばにいてくれた。



だけど、彼には明るい世界で生きていて欲しい。



「月は星と違って、夜も昼も見えるね。あたし……橘くんには明るい場所にいて欲しいの」



「凜ちゃん、月は昼間も見えるけど夜のほうが輝いて見えるよ。……星と一緒に生きたらいかんの?」



「……うん……ダメなの……」



陽葵ちゃんはきっと、橘くんに余計なことを言ったと責任を感じてるんだ。



「これでよかったんだよ……陽葵ちゃん」



「凜ちゃん……」



踏切の前で電車を見つめていたとき、陽太が後ろからあたしを抱きしめてた。



もし、橘くんがあたしを想っていてくれたのなら。



陽葵ちゃんの言葉を信じたのなら。



あたしに向けられた橘くんの哀しげな瞳の意味は……



“今度こそ、サヨナラ”


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