逢いたい夜は、涙星に君を想うから。
俺は眩しい太陽に目を細める。
「前にも言っただろ……?くぼっちは、きれいごとだって言ったけど……」
「あーあれ?“咲下が幸せなら俺も幸せ”ってやつ?おまえあのとき、もし他の男に持ってかれたら、想いを断ち切る理由になるって言ったよな?」
「よく覚えてんのな」
「俺の中の辞書にはない言葉だったからな……ってオイ!鼻つまむな!クサかったよ!はいはい、“俺の中の辞書”クサイ台詞でしたね!すいませんでしたっ」
俺は鼻からパッと手を離す。
「何度も頭でそう言い聞かせてる……」
「でも、いざそうなってみると、心が言うこときかないだろ?」
「どうやったら忘れられんの?くぼっち……」
「そんじゃ……夏休みになったら、琉生くんのための失恋傷心旅行でも行くかっ」
「……行かないっす」
「ホント、おまえ……いいかげんにしろよ?」
「ふっ……」
俺が笑ったその瞬間、頭の上から低い声が聞こえた。
「いいかげんにしろ、おまえら」
俺たちの頭の上に、体育の先生が腕を組んで険しい顔で立っていた。
「早く泳げよ、コラ」
俺とくぼっちは慌てて起き上がる。
「いやぁー、日焼けして今よりもっとイイ男になろうとしてましてぇ。先生もどう?俺たちと一緒にイイ男になろーぜいっ?そしたら先生も彼女できるかもよ?」
「久保寺っ」
――ゴツンッ。
「イデッ!」
くぼっちは先生からゲンコツを頭にくらった。
「くだらないこと言ってないで早く泳げっ」
俺は「はい」と返事をしてコース台の上に立った。
「ったく。先生もいい年なんだからさぁ。そんな短気じゃ、いつまでも結婚できねぇーぞっ」
「久保寺っ!」
「キャー!うそうそっ」
――バッシャーン。
俺とくぼっちは、コース台の上から同時にプールの中に飛び込んだ。
目を閉じると、踏切の前で俺を見つめる咲下の顔が浮かんでくる。
なぁ……咲下。
なんでそんな、
泣きそうな顔してるんだよ――。