逢いたい夜は、涙星に君を想うから。
吉野は俺の顔を見つめた。
「……そう?別に普通だけど」
「なんかあった……?更紗でよければ、話聞くよ?」
「何もないよ」
俺は笑顔で答えた。
「このまえ……」
吉野は目を伏せて、手をモジモジしながら聞く。
「……咲下さんに会いに行ったんでしょ?」
「え……なんで知ってんの?」
吉野の口から咲下の名前が出てくると思わなくて、俺は少し驚く。
「前にね……橘くんがくぼっちと話してるの、偶然聞いちゃったんだ……。咲下さんに会いに行くって話してた」
「あぁ、そーなんだ……」
くぼっちとの会話を吉野に聞かれてたのか。
「咲下さんて、2年のときに橘くんと同じクラスだった子だよね?転校しちゃったんだっけ……?」
「あぁ……うん」
「咲下さんには、会えたの……?」
ズキッと胸の奥が痛んだ。
「まぁ、一応……」
踏切の前に立つ咲下の顔が浮かぶ。
「そ、そぉなんだ……。橘くん、前に更紗が告白したときに言ってたよね?好きな人がいるって……」
「……うん」
「橘くんの好きな人って、咲下さんだったんだね。くぼっちと話してるの聞いて、なんとなくわかっちゃった」
吉野は顔を背けて、話を続ける。
「なんか意外だなーって。咲下さんてなんかさぁ……」
「吉野……なにが言いたいの?」
少し冷たい言い方になった。
咲下のことを悪く言われそうな気がしたから。
「咲下さんは……橘くんの気持ち知ってるの……?」
「……吉野には関係ないことだよ」
「だ、だよね。ごめんっ。変なこと聞いたりして」
そう言って吉野は気まずそうに笑顔を見せたあと、俺から視線を逸らした。
「じゃ、俺も帰るわ」
俺が席を立ち上がって行こうとすると、イスに座ったままの吉野は左手でぎゅっと俺の左腕を掴んだ。
「橘くん。夏休みって、どうしてる?」
吉野は俺の腕を掴んだまま、下から俺の顔を見上げた。
「夏祭り、一緒に行かない……?」