逢いたい夜は、涙星に君を想うから。

橘くんの大きな背中。



風に揺れる橘くんのサラサラした黒い髪。



こんなに近くで彼を見つめるのは初めて。



教室や廊下、気づけばいつも、彼の姿を目で追ってしまう。



もちろん彼には、気づかれないように。



だけどいまは、こんなに近くで。



橘くんの後ろ姿を見つめてる。



胸がドキドキしてる。



改めて思った。



橘くんが……好き。



「咲下」



「な、なぁに?」



スピードを上げていく自転車、前を向いたまま橘くんは言った。



「危ないから掴まってて」



「あ、うんっ。ごめん」



あたしは橘くんの紺色のブレザーを両手でそっと掴んだ。



胸が……ぎゅってなる。



涼しい風が吹く秋の朝。



綺麗な水色の空を見上げ、太陽の光に目を細める。



朝から寝坊してバスに乗り遅れたけど、橘くんに会えて、自転車にまで乗せてもらえた。



不運が、思いがけず幸運に変わることもあるんだね。
< 6 / 528 >

この作品をシェア

pagetop