逢いたい夜は、涙星に君を想うから。
橘くんの大きな背中。
風に揺れる橘くんのサラサラした黒い髪。
こんなに近くで彼を見つめるのは初めて。
教室や廊下、気づけばいつも、彼の姿を目で追ってしまう。
もちろん彼には、気づかれないように。
だけどいまは、こんなに近くで。
橘くんの後ろ姿を見つめてる。
胸がドキドキしてる。
改めて思った。
橘くんが……好き。
「咲下」
「な、なぁに?」
スピードを上げていく自転車、前を向いたまま橘くんは言った。
「危ないから掴まってて」
「あ、うんっ。ごめん」
あたしは橘くんの紺色のブレザーを両手でそっと掴んだ。
胸が……ぎゅってなる。
涼しい風が吹く秋の朝。
綺麗な水色の空を見上げ、太陽の光に目を細める。
朝から寝坊してバスに乗り遅れたけど、橘くんに会えて、自転車にまで乗せてもらえた。
不運が、思いがけず幸運に変わることもあるんだね。