凶漢−デスペラード

3…鎖

短くなった煙草を灰皿に押し付け、僅かな着替えだけが入っているカラーボックスから下着を取り出し、それに着替えた。
ケータイが鳴った。
田代からだ。

せっかちな野郎だ……

心の中で舌打ちしながら、電話を取った。
(竜治さんよぉ、今何時か判る?俺も、そろそろ一眠りしたいんだよね。)
「すいません…今からそっち、行きますんで…」
(頼むよぉ、いつまでも刑務所ボケのまんまじゃ他の奴らに舐められちまうぜ…)

刑務所ボケはテメエだろうが…
いや、こいつの場合はシャブボケか……
シャブ屋がネタ喰ってちゃあお終いだろ……

「10分で行きます。」
(阿呆っ!5分で来い!)
重い腰を漸く上げて、竜治は玄関を出ようとした。
ジュリが起きた。
「いたいんなら、俺が戻る迄此処で大人しく寝てな。」
そう言って、竜治はポケットから、千円札を三枚出し、猫の額程の台所に置いた。
「腹減ったら、この金で出前でも取れ。」
「……着替え、取りに行って来る…」
「好きにしな。鍵は開けっ放しで構わねえから…」
時計を見る。
電話から既に三分……。
どうにでもなれ…

いつも田代と待ち合わせる喫茶店は、センター街にある。

5分で着ける訳ねえだろうが……

近所の年寄りが、野良猫達に餌を与えていた。
その横を通りながら、ふと、自分があの野良猫達と同じだなと思えて来た。

二十歳で殺人の罪で服役。
打たれた刑期が八年。
やる気の無い国選の弁護人だった。
弁護する事より、俺のやった事を非難してた。
検事みたいな奴だった。
思い返す度に、太った赤ら顔のその弁護士を頭の中で八つ裂きにしていた。
二十六歳迄は、少年刑務所に送られる。
関東管区には、初犯者を受け入れるK少年刑務所と、再犯者又は暴力団関係者を収容するM少年刑務所があった。
竜治は一応、更正の可能性有りと、入所前の分類審査で認められたので、K刑務所に送られた。
面接の刑務官の皆が口を揃えて、
「神崎は刑が長いんだから、職業訓練を受けとけ。」
と言った。
刑務所には、様々な職業訓練があった。
竜治は、指導してくれた刑務官達の言葉に従ってみようと思った。
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