スゴロク!

2マス目

「♪~今日もお酒が呑めるのは~♪ユイちゃんのおかげです!
♪~感謝の気持ちを表して~♪ハイッ!一気!一気!一気!」
すでに12杯目の水割りを飲み干した私は、かなり酔っていた。
自分用の水割りは、こっそり薄く作ってたんだけど…まさかこんなに飲まされるとは。
(う~…気持ち悪いよぅ…こんなんじゃターゲットからネタを聞き出す余裕なんて無いじゃない…)
ターゲットと言っても、目の前にいるのは無名の若手芸人。今は私にお酒を飲ませて喜んでる単なる馬鹿男。
「…ごめんなさい、私もう限界です…」
お酒は弱い方じゃないけど、さすがにこれ以上飲むと仕事に支障があるし。
「ユイちゃ~ん、まだいけるでしょ~?ちゃんと会話ができてるしさ~。まだ余裕じゃ~ん!」
この馬鹿男、会話が出来なくなるまで飲ませるつもり?
でもこれ以上はホントにヤバいかも…
「ごめんなさい、ホントに…あ、ちょっとお手洗いに……きゃあッ!」
自分で思うよりもだいぶ酔ってたみたいで、私は椅子から立ち上がれずに馬鹿男に倒れかかるように転んでしまった。
「うわー!ユイちゃん大胆だねーッ!俺嬉しいなぁ!」
「ち、違ッ!」
完全に酔ってしまって全力で抵抗できない私を、馬鹿男は抱き締めたまま放さない。
ヘルプの視線を店長さんに向けるけど、ニヤニヤしてるだけで観戦を決め込んでるみたい…。
あぁ…私これからどーなっちゃうんだろう…うわぁ…視界が歪んできた…あれ…目の前が真っ白だぁ…潜入初日からこんなんじゃ…こんなんじゃ…

真っ白だった目の前が真っ黒になって、私は気を失うように眠ってしまった。

………。

「…ん…」
「…ん?」
「んんッ!?」
目が覚めた私はガバッと起き上がった。
頭痛と吐き気が酷いけど、現状把握が先!
「とりあえず、誰かの部屋…?服は…よし、着てるわね。時間は…」
腕時計を確認しようとした時、部屋のドアが開いた。
「もう昼だ。潜入初日からあんなんじゃ先が思いやられるな。とりあえず二日酔いの薬とミネラルウォーターだけ用意した。食欲は無いだろ?」
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