カベの向こうの女の子
駅員となにやら手続きをしてる春菜は、笑顔だった
変わらない無垢な、俺が好きな笑顔だ
そして、春菜はお辞儀をして踵を返した
同時に俺も一歩踏み出す
そして春菜のほうへ歩いた
春菜は定期を見つめていたからか、近くに行っても俺に気がつかなった
白いブラウスに白い春菜のうなじが電灯の灯りに照らされている
階段を降りる春菜を呼び止めた
「春菜」
春菜はゆっくりとこっちを振り返る
そしてやっぱり俺を見て、目をまんまるく見開いていた
変わってない
艶のある短い髪の毛も、少しピンクがかった頬も、かまぼこ型の目も
春菜が、小さく息を吸い込むのがわかった
問題は驚いた後だ
俺はどぎまぎした
自分がどんな表情でいるのかわからなかった
春菜は微かに言った
「波くん…」
春菜の目は、軽蔑した目ではなかった
困惑している様子で、目を伏せていた
沈黙を破りたくて、俺は口を開けた
「春菜、ごめん」
春菜は目を伏せたまま、黙っていた
意外だと思った
話すことはないと、相手にしてもらえないと思っていた
春菜は怒っているようには見えなかった
俺を目の前にしてひるんでるのかもしれないが