カベの向こうの女の子


また沈黙が続いた



俺はまた沈黙破ろうと、慌てて言葉を探す



すると春菜が口を開けた



「嘘なんて、許せない」



春菜は独り言のようで非常に小さい声だったが、はっきりそう言った



俺は言葉が出なかった



右手をこめかみ辺りに当てる



あまりにショックだった


俺が何も言わないでいると、春菜はうつ向いたまままた口を開けた



「許せないけど、波くんのこと嫌いになれないよ」



かすれた苦痛を帯びた声だった


目の前で春菜の顔が歪んでる



「春菜…」



何か言葉を続けなきゃとはわかっていたのに、何を言えばいいのかまったくわからなくなった



予想外の春菜の言葉に困惑しているのもあるし、春菜に苦痛を与える俺が許せなくて怒りが自分にわいてきた



ただ春菜の名前を呟くしかなかった



春菜が瞼を閉じると、頬に水滴が流れた



涙だった



「ごめん、俺、もう嘘なんかつかないから、だから…」



春菜は震えた声で返した


「なんで、誘拐なんてしたの…?」



春菜の率直な疑問に俺は面を喰らった



「誘拐して、何か意味があったの?」



< 215 / 219 >

この作品をシェア

pagetop