カベの向こうの女の子
また沈黙が続いた
俺はまた沈黙破ろうと、慌てて言葉を探す
すると春菜が口を開けた
「嘘なんて、許せない」
春菜は独り言のようで非常に小さい声だったが、はっきりそう言った
俺は言葉が出なかった
右手をこめかみ辺りに当てる
あまりにショックだった
俺が何も言わないでいると、春菜はうつ向いたまままた口を開けた
「許せないけど、波くんのこと嫌いになれないよ」
かすれた苦痛を帯びた声だった
目の前で春菜の顔が歪んでる
「春菜…」
何か言葉を続けなきゃとはわかっていたのに、何を言えばいいのかまったくわからなくなった
予想外の春菜の言葉に困惑しているのもあるし、春菜に苦痛を与える俺が許せなくて怒りが自分にわいてきた
ただ春菜の名前を呟くしかなかった
春菜が瞼を閉じると、頬に水滴が流れた
涙だった
「ごめん、俺、もう嘘なんかつかないから、だから…」
春菜は震えた声で返した
「なんで、誘拐なんてしたの…?」
春菜の率直な疑問に俺は面を喰らった
「誘拐して、何か意味があったの?」