恋愛温度、上昇中!
「高見さん、方向はこっち?一緒にタクシー乗ろうか?」
店を出て、王子は私に向き直る。
全く酔いを見せない端整な顔はどこか中性的で、綺麗な人だな、そう思った。
さりげなく私の腰に回す腕に、見た目よりもずっと女慣れしているんだろうと思う。
「いえ、構いません」
もう、今日は疲れたの。帰りのタクシーまで誰かと一緒なんて勘弁して欲しい。歩いて帰れる距離だし。
「え?」
何故か王子は驚いたように眉を上げる。
「歩いて帰ります」
そう告げた私に王子、新橋さんはニコリと笑った。
「危ないよ」
「人通りの多いところを通るから大丈夫ですよ」
きっと心配性なんだろうな。ゆっくり首を振ると、新橋さんがその端整な顔を僅かに歪めた。
て、なに、この寒い空気?帰り道に変質者でも出たの?
それとも素っ気なかった?もっと違う言い方があるんじゃないのかと胸の奥で突っ込む。勿論全く浮かばないけれど。
「ふ」
短い笑い声を上げたのは、関谷。
「多空かっこ悪」
ケタケタと笑うと新橋さんも苦笑を返す。悔しながらその声が雰囲気を打破してくれたのは間違いない。