少年少女リアル
 夏目さんは無類の読書好きだ。
鞄から出てきた本は、まるでジャンルに統一性がない。時代物からSF小説、それから、誰のかも分からない伝記のようなものまで出てきた。

中から一冊、『紫陽花』と表紙に書かれたものを取り上げる。何となく、目を引かれたからだ。

白と若紫の、美しい表紙。
所々にぼやけた赤が挿してある。恋愛小説だろうか。

「これ、面白かった?」

そう聞きつつも、もう借りる気満々なのだけれど。

「普通」

表紙を捲ると、滑らかな紙面に「紫陽花」の文字が今にも揺れ動きそうなバランスで並べられている。
若者向けのデザインだ。
確かに「普通」そうだと思った。

「日本版『ロミオとジュリエット』ってところかな」

在り来たりな悲恋物語かと勝手に納得する。

僕はあまり恋愛小説は読まない。
恋愛小説の中で繰り広げられる話をどこか冷めた目で見てしまい、感情移入しないからだ。
どちらかと言えば、推理小説を読む事の方が多い。

それなのに、僕はその一冊に目を吸い寄せられていた。
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