少年少女リアル
 上着に腕を通した途端、一気に暑くなった。肩の縫合が甘いような気がするけれど、文句を言える立場ではない。

前のボタンを留め終えると、冴木と元橋さんは「おお」と声を揃えた。

「うわぁ、良いんじゃないの、執事! これこそ萌え!」

「俺、何かやる気出てきたわ!」

二人の興奮の声に誘われ、衣装を縫っていた生徒達からの視線も感じる。
恥ずかしくて、苦笑いしか出てこない。

「何か台詞言ってみてよ!」

「台詞って?」

「何でもいい、アドリブで」

「そんなの分かるか」

そもそも、台詞を決める段階にも至っていないのに。早とちり過ぎて笑ってしまう。

「ねっ! 似合ってるよね、奈央」

向井さんは真っ赤な顔で頷いた。


こんな反応、されても困る。何故だか僕が恥ずかしくなるじゃないか。

「あはは! やだ、何赤くなっちゃって」

黙りこくる仕種が、見ていてもどかしい。
目が合わないよう、僕は二人のやり取りを聞いていないフリをした。


「あとは手袋があれば完成なのになぁ」

「手袋? 漫画の読み過ぎじゃねぇの?」

冴木のツッコミに同意だ。雰囲気から入ったところで、中身が伴わなければ意味がない。僕等は漫画のキャラクターじゃないのだから。

「手袋なんかしたら、料理運べないんじゃない?」

続いて上着を着た冴木は、見惚れるほど衣装が似合っていた。僕なんかよりもずっと。

「そんなの、二人は運ばないから関係ないよ」

「は?」

冴木の衣装を見て、僕は嫌な予感がした。
< 63 / 194 >

この作品をシェア

pagetop