失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】




あ…

あの時の






少し血の気が引く感覚がする

明るいはずの海沿いの道が

幻のように夕日に染まる




あの人と車の中から

この海を…見た

男達に犯されたあと

ぼろきれみたいになって

助手席からこの景色を




ここだったん…だ…




「どうした?黙りこんで」

ヤツが固まっている僕に

小声で尋ねた

その声で現実に引き戻された

「あっ…ああ…デジャブ」

「デジャブ?来たことあんの?」

説明は無理だ

だが建て直せない

「ん…まあ…ね」

無理に笑おうとするが

涙が出そうになった

ヤツはそんな僕の顔を見て言った

「誰にもそんな場所はあるのだ」

そしてニヤッと笑った

「神様には見られてたな」




なぜか僕はそれを聞いて

重苦しく詰まっていた胸の中が

スッと軽くなるのを感じた

「ほんと…だな」

僕は思わず少し笑っていた

ヤツが安心したような顔になった

「おーい!遅れてるよー!」

先輩が桟橋から振り向いて叫ぶ

「あっ…うちの女子足はえぇ」

急いで追いついた



初めて渡る島の桟橋は

海風が強かった

島の入り口には大きな鳥居が見えた

また…来ました

待っててくれたんですか?

また来るのを…



鳥居をくぐった瞬間

そこは異空間のような静寂に

包まれていた







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