失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
セミが鳴いている
その音がなぜか静けさを際立たせる
僕たちは誰ともなく押し黙っていた
木立の影
ひんやりと心地良い
さっきまであんなに暑かったのに…
大きな地図の前に立つ
先輩が先に立って歩き出す
石段は上がり口から急な勾配で
見上げても先は木々の緑と光
一番上に着いたら
何が見えてくるのか
みんな知りたくて駆けるように
石段を登っていった
突然視界が開かれた
長い石段の上には
大きな門が待ち構えていた
両側いっぱいに開かれた
大きな扉のその向こう側には
赤い大きな社殿が
樹木に囲まれるように
静かに建っていた
「ここ…本殿だ」
先輩が教えてくれた
「キレイ…」
後輩がうっとりした顔で呟く
僕たちは先輩に倣い
御手洗(みたらし)で手を清めた
四人で拝殿の前に立つ
それぞれが賽銭を投げ鈴を鳴らし
なぜか皆同時に手を合わせた
「一緒に鳴らすよっ」
先輩が声を掛ける
ぱん!ぱん!と音が鳴り響く
揃って柏手を打った
「じゃあ駄天使…代表で挨拶して」
「おお」
ヤツは臆することなく拝殿の奥に
呼び掛けた