王子様の甘い誘惑【完】
「でも、最後の最後で理生が俺と一緒に住むのを嫌だって言うだろうって話になってさ。それで、あの契約書を考え付いたんだ」
「じゃあ、あの契約書って……なんの意味も持たなかったってこと?」
「そういうこと」
……それならば、納得がいく。
契約書の話をされた時、どうして蓮との契約を破棄したら退学になるのか不思議だった。
だって蓮がこの学校の理事長ってわけじゃあるまいし、蓮があたしを辞めさせる権限なんてないはず。
そう思っていたけど、あの時にそんなことを言ったりすれば火に油を注ぐことになりかねない。
って、ずっと自分の胸の中にしまっておいたけど……。
「そっか……。そうだったんだね……」
契約書を蓮が作って、お父さんとお母さんのサインをもらった。
その契約は実質的に何の拘束力もなくて。
ただの紙切れ同然だった。
……それを、バカなあたしはまんまと信じ込んでいたんだ……。
今の今までずっと。
「……最初から教えてくれればよかったのに」
そうすれば、こんなに悩まなくてもよかったのに。
そうすれば、もっと早く蓮の胸に素直に飛び込めたのに。
あたしは唇を尖らせながら蓮を見た。