ダークエンジェル
「ああ、それであなたたちも驚いていらしたのですね。
ええ、今の日本で…
それも大学の研究室にいた人がそんなんだとは…
信じられませんよね。」
素高も素直に応じている。
「弁護士さんも知らなかったのですか。」
「ええ、知りませんでした。
でも、高倉氏は何か感じていたのではないですか。
だから私に… 」
「父さんが… 」
その言葉にリュウが反応した。
「何かおかしな事があるのですか。」
水嶋も身を乗り出している。
「だって私は弁護士ですよ。
遺言書、などは自分の死後の事を案じている人が書くものでしょう。
再婚しようか、と思うような人が、
自分の死後の心配など… 大抵はしませんよ。
ましてや高倉氏はあの時まだ50代、
龍彦君の中学の事を考えていた頃ですよ。
ええ、龍彦君がやっとまともに学校へ通う、と言って喜んでいたのですよ。
まあ、私は仕事ですから、
依頼されれば喜んで働かせていただきますけど… 」
「父さんは何を感じていたのですか。」
その頃は確かに父は、
リュウの中学選びで張り切っていた。
そして、その話が治まった頃から
美由紀の名前を聞くようになったのだ。
そうだ、そんな時期に、
自分の死後のことを考えるなんておかしい。
何があったのだろう。
「さあ… 遺言書に何が描かれているのか分かりませんが…
だけど… これも本当は守秘義務に反するかも知れませんが…
本来なら、高倉氏が亡くなった後、
彼の資産は半分を配偶者、すなわち奥さん、
後の半分を子供たち、と言うのが普通です。
ところが高倉氏は、
再婚前に、全ての資産を龍彦君名義に書き換えることを依頼しました。
もっとも、こんな事になってしまえば全く必要なかったことですが… 」