汚レ唄
携帯をポケットに戻し、レジに置かれている無料とかかれたガム、俺はそれを2つだけ手に取る。
「ありがとーございましたぁあああああああ」
とやはり威勢のいい声で見送られる。
ノレンをくぐると、すぐ店の前に羽香が立って空を見上げていた。
羽香の発する息が白くなって空に上っていく。
その息を眺める羽香の瞳はいつになく寂しげな瞳だった。
「……羽香!!」
俺は手にしていたガムを1つ羽香のほうに放る。
「え??」
羽香はというと、見事にガムをキャッチする。
「ラーメン食ったら匂いがな……」
特にこんなこってりの後は匂いがきついと思う。
羽香は手の中に納まったガムを確認すると、
「サンキュー」
と口を大きく開いて、いつものように笑った。
寒空の下、俺たちは再び歩き出す。
服の裾を引かれることもなくなり、俺たちの距離は来たときよりも離れていた。