銀鏡神話‐玉響の驟雨‐
さっき通り過ぎたあの男が、入り口の扉の前に腰掛けながらぽつりと唱えた。

「法皇様ーーっ!!」

ティーナ皇女が、自分の父親であろうリオルト法皇を撃ったのだ。

リリーはショックのあまり」、泣き崩れた。

自分が仕えていた主人が瞬く間に死んでいったのだ。

もしフィルリアに殺されていたのなら、怒りの闘志は彼奴に向かってただろう。

だが法皇を殺したのはティーナ皇女、法皇の娘なのだからどうする事も出来ない。

「ふふふふふ……

此で貴方の聖術は私だけの物になりましたわ。」

ゆっくりと法皇の手からティーナ皇女は聖法杖を取った。

白銀の枝の天辺に飾られた瑠璃色の珠が。

ティーナ皇女が一度取ると、其の瑠璃色の珠は焔の様な紅い珠へと色を変えていった。

「お父様、可哀想なお父様。

異端者に撃たれて死んでしまった。」

「なっ!?」

こいつ、まさかフィルリアに全ての罪を着せるつもりか!?

「異端者は、お父様を殺した罪の重さに耐えきれず……」

聖法杖をティーナ皇女はフィルリアに向けた。

「自ら命を絶ちましたとさ。」


バン


紅い珠が光ると、聖法杖から爆炎が出る。

爆炎は姿を変え……そう、龍の形に成り、フィルリアに襲いかかった。

「フィルリアーーーー!!」

走った。

フィルリアの元へ全力で。

なのに、情けない事に、俺はフィルリアを救えなかった。

そして、一つの生が消え逝く――――

目を瞑った。

俺は臆病だな。

次に目を開けた時には取り返しのつかない事になってるのに。

「ケリ……ア……」

「フィル……リア、復讐何て……止しなさいな……」

母さんの右半身が焔の龍に喰われ、ボロボロになっていた。

出血が止まらない……

「母さ……ん」

駆けだしていた俺の足が、止まった。

恐怖のあまり竦んでしまって、動かなくなった。

「ケリア、ケリア――――!?

何故だ? 何故俺何かの為に!?」

母さんは噎せかえりながら、血を吐く。

震えながら泣くフィルリアの頭を残った左手で撫でながら、何時もの様に笑った。
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