銀鏡神話‐玉響の驟雨‐
前の方で法皇を崇めていた母さんが俺の元へとやって来た。

「? フィルリアは一緒じゃなかったのかい?」

母さんは辺りを見渡すが、もう礼拝堂内に残っているのは、俺とフィルリア、母さん、リリーにアイラ、法皇と皇女に、物好きな奴等が四人……

「彼処だよ……」

俺は歯を食いしばる思いで、法皇に向かって走る異端者を指差した。

此の時の母さんの顔は今も忘れない。

愕いて、怒って、其れで、今まで見た事も無い位に哀しい顔をしたんだ。

「フィルリアっ!!」

母さんは階段を駆け下りると、フィルリアに向かって走り出した。






「アイラ、下がっていろ。」

リリーは負傷したアイラに肩を貸すと、壁際の椅子に座らせた。

(氷の様に冷たい……)

凍てつくかの様に冷たくなったアイラの肌。

蒼い光を纏った此の短剣のせいだろう。

光が何もかもを拒絶している。

彼女は此の剣と何の術を錬成させたのだろう?






「……」

駄目だ。

このまま、俺一人が指を加えて見てる訳にはいかない。

「フィルリア!!」






「貴公は誰だ? 私に何の恨みが有る?」

法皇が聖術を使う時に用いる、聖法杖をフィルリアに向ける。

法皇の目は、お前如き何時でも聖術で殺せると語っていた。

然しフィルリアは笑った。

見せ掛けでは無い。

本気で、心から笑っているんだ。

「私は其の力を真に継承し“宿木の一族”の末裔だ!」

広い広い、礼拝堂に木霊するフィルリアの声。

物好きな奴等は興味深そうに見物していた。

俺はフィルリアの元へ向かう一瞬、一人の男と通り過ぎた。

「煌の力。 君は上手く使いこなせるかな。」

「え……」

振り返った時には誰もいなくなっていた。

煌の力(きらのちから)……?

いや、今はそんな事気にしてはいられない。
< 8 / 24 >

この作品をシェア

pagetop