月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
あたしが家に帰る時に乗るのと方向違いの電車に乗って、5個目の駅で降りた。
冬海と電車に乗るのって初めて。平日の昼間だし、乗客も少なくて、座席がたくさん空いてるのに座らないで、2人で窓の外を見ていた。
窓に張り付いて、流れる景色を。
冬海は子供の頃からこっちに居るわけじゃないから、見慣れない景色もあるのかもしれない。
雨上がりの街は、静かで無機質に見える。
電車の音は規則的で、耳に入ってさっきより少しだけ、景色を明るくさせた。
駅を出て「なんか飲み物と食べ物買って行こう」と冬海が言った。使わない、降りたことの無い駅。駅前のコンビニに立ち寄ることになった。どこの駅前にでもコンビニってあるんだな。
「パン食うかなー昼飯まだだったんだよ、俺」
「そうなの?」
あたしもそういえば食べてないや。鞄におにぎりが入ったまま。冬海の家で食べようかな。少しだけお腹が空いていた。
「センパイ帰るって言うから急いで出てきたし、食べる暇無くて」
「ああ、そっか」
冬海は、パンコーナーで甘いパンとしょっぱいパンを1個ずつ取って、向かいにあるドリンクの棚から豆乳を取った。
「あ、俺カゴ取ってくる」
店内は誰も居なかった。
あたしも豆乳にしよう。味付きのが無いから、冬海と同じ普通ので。あと、チョコレート。ポテトチップも食べるかな。あたしが食べなくても冬海が食べそう。