月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
 鞄をドサッと置く冬海。畳の上にカーペットを敷いてある。

「ボロくてびっくりしたろ」

 確かに新しくはないけど、小ぎれいにしていてそんなに古さは感じない。冬海が思うほどじゃないと思うんだけど。


「おばあちゃん、旅行か何か?」

「いや……」

 言い淀んでいる。

 まただ。なんで言わないんだろう。言って困ることなんだろうか。

 あたしに言えないことなの? 全部話してとは言わないけど、困ってるんだったら言って欲しいのに。


「あー、腹減って死にそうだから食っていい?」

「……」

 はぐらかされた。バリバリとパンの包装を破く音がカンに障る。

 なんで言わないの、なんで? ……イライラする。

 テレビを正面にするようにあたしが座って、冬海はあたしの斜め前。テーブルの上にはコンビニで買った飲み物やお菓子を並べている。


「冬海……」

 なんでそんなに秘密があるの、なんで言わないの? そんなに内緒のことなの?


「この間、あたし倒れて保健室に居た時ね」

「うん」


 パンを頬張って、くぐもった冬海の返事。



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