月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
「中尾先輩が一緒に居たんだ」
「ん?」
なんで、あたしこんなことを言ってんだろう。
「冬海のこと……やめろって」
カサカサ。冬海が食べているパンの包装ビニールの音。部屋の中の沈黙。
あたしの心音は自分にしか聞こえなくて、呼吸は少し冬海に聞こえているかもしれない。
「……なんで?」
パンに水分を持って行かれたのだろうか、冬海の声はかすれていた。
「と、冬海に触って欲しくない……とかって言って」
「何を」
「……あたしを」
自分で言ってて恥ずかしい。何を言ってるの、あたし。
「何それ。なんで」
食べかけのパンをテーブルに置いた冬海は、短い息を吐く。あたしは言葉の続きを選んでいて、でも思いつかなくて黙っていた。
「なんか、変だね」
歯形の付いたパンは「早く全部食っておくれよ」と言っているようだった。あたしは飲みもしない豆乳を手に持ったまま。
変だろうか、あたし。
「なんか……されたの、中尾先輩に」