月光レプリカ -不完全な、ふたつの-
 教室の入口に向かって、走り出す。

 机にぶつかって、友達にぶつかって。こんな時でも鞄は持ってる。

 涙が零れ落ちそうになって、梓に見られたくなくて俯いていた。でも、きっと気づかれた。


 教室のざわめきを背中にして、あたしは教室を飛び出る。どこに向かっているのか分からない。でも走って、すれ違った学校の先生に「廊下は走らない!」と怒られても無視して走った。足がもつれても。

 気付けばあの花壇に来ていて、鞄を地面に投げつける。筆入れや教科書が土の上に散らばった。

「……っ」

 風が冷たい。冬海が学校を辞めてから、ひと月が経とうとしている。一歩一歩、冬に近付く季節。冬海に出会った季節になるよ。

「と……み……」


 どこに居るの? 冬海の居ない日々が、こんなに色を無くすなんて思わなかった。どこで何をしてるの? 傷を抱えたままで、一人で。あたしは冬海に何もしてない。

「……冬海」

 あなたに会えない。そばにも居られない。まるで手足をもがれたみたいに、心が身動きが取れない。

「冬海、冬海……!」

 涙は土に落ちて滲みていく。跪いて手を付いた土も冷たい。

「冬海!!」

 寒いからなのか、分からない震え。

 叫びは風が流して行って、きっと冬海には届かない。

 もっと好きだって伝えれば良かった。もっと毎日一緒に居て、素直に笑えば良かった。

 後悔しても遅くて、あたしは泣いて震えてるだけ。
 
 これから冬が来て、春が来て夏になっても、冬海は居ない。


 まるで広い世界に一人だけ取り残されたみたいだよ。会いたいよ、冬海。



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