ダブルベッド
桃香が立ち上がって、歩き出した。
充は黙ってついていく。
墓地を出て陰のある通りに差し掛かったところで、セミの鳴き声に混じって微かに桃香の声が聞こえた。
「え? 何?」
聞き返すと、桃香は寂しく微笑んで、
「木下くんって良い人ね。って言ったの。何だか言い合いばっかりしてるけど、ね」
充の心がきゅっと詰まる。
「良い人、ねぇ」
「ホテルでも、何もしなかった」
「それは、俺も疲れてたから」
「それだけ?」
「どういう意味?」
「あたしはそれで、木下くんがあたしに本気なんだなって……わかったの」