求愛
誰かを傷つけてまで愛を得たとしても、必ず痛みと過去は付き纏う。


ましてや乃愛は、幼子から“父親”という存在を奪う気なんてないのだろう。


なのに、それでも好きだなんてね。



「あたし、アンタを応援しようとは思わないけど、でも、否定もしないから。」


十分だよ、と乃愛は言った。


その時、あたしの携帯が着信音を鳴らし、ディスプレイには“タカ”と表示されている。



『なぁ、お前今日遅くなる?』


「ううん、今帰ってるけど、どうしたの?」


『道明くんがさぁ、飯行くのにリサも誘えってうるさくて。』


「マジ?
あと15分くらいだから、ちょっと待ってて。」


『おー、了解。』


通話を終了させると、横から乃愛が、「誰?」と少しニヤけた顔で聞いてくる。



「カレシだぁ?」


「まぁ、似たようなもんってゆーか、今ほぼ一緒に暮らしてる感じなんだよね。」


言ってやった瞬間、



「うそっ?!」


初耳だと言わんばかりに、彼女は目を白黒させた。


ルームミラー越しに、運転手の千田さんまで驚いた目で見てくるけれど。


別に今更隠しても仕方がないし、これでも口の堅い乃愛だ、言っても問題なんてないだろうから。

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