求愛
両肩を鷲掴んで揺らされるが、あまりの形相と手の力に、思考でさえも追いつかない。


バッグに入れていた携帯は、タカの指定音である着信を鳴らしていた。


が、とても出られる状況なんかじゃない。



「ボク達の本当の出会いを教えてあげようか?」


男は頬を紅潮させて薄笑いを浮かべる。



「あのブルセラショップで、“アユ”という名の子の下着を買うのが、ボクの一番の喜びだった。」


「…いやっ、やめっ…」


「そんな時、ボクのタクシーに乗ってきた子を見て驚いたよ。
店での写真には目細工やラクガキが施されていたが、身に着けていたアクセサリーですぐにあなたがあの“アユ”だと気づいたんだ。」


佐藤ちゃんに売り飛ばしてた下着。


そしてあの当時ハマっていた一点物のブランドアクセ。


遊び半分で繰り返していた行為が、今になってこんなことになるだなんて。



「佐藤という女に金を渡したら、すぐにあなたの携帯のアドレスを教えてくれた。」


「…そん、な…」


彼女にとってあたし達なんてただの商品でしかなく、利用していたつもりがまんまと金ヅルにされていたということだ。


笑うことすら出来なくなる。



「ボクはずっとあなたを見てきたんだよ?」


なのに、と彼は唇を噛み締めた。



「毎日あなたを心配して何通もメールを送っていたのに、どうして!」


「…やだっ…」


「何度も愛していると告げてあげたのに、どうしてカレシなんか!」


嘘だと思いたかった。


あの正体もわからないストーカーが千田さんだったなんて、思いたくもなかったのに。

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