狼彼女のお気に入り
影が入っていった校舎の屋上に向かう。
俺の見間違いでなければ…
屋上から見ていたあの視線はアイツだった。
「篠田!」
「……遅いよ、会長。」
まるで俺が来ることをわかっていたかのように、小さく微笑んでいた。
俺は呆気にとられて思わず苦笑した。
「お前、ちゃんと朝から来いよ。」
「来ただけでも誉めてほしいんだけど?」
「それはそうだが…競技に出なければ意味がないだろ。」
俺がそう言うと、少し拗ねたように外方を向いた。
「別にいいよ。走りたくないし。」
「じゃあ──」
“何のために来たんだ?”
そう言おうとしたのに、出かかった言葉は喉で止まった。
振り向いた篠田の顔があまりにも近くて…
“会長が、欲しいよ”
「ッ…」
自分でも顔が紅潮していくのがわかる。
俺は自分が分からない。
この間から、俺はずっと篠田に振り回されている。
今日だって。
篠田を自然と目が探していた。