秘密
 

SIDE.雨宮好美
 



 
好美が妊娠していることから、悠平はキス以上を求めなかった。
二人が深く繋がっていられる感覚は、いつもキスから感じていた。それで実感していた。
 

悠平は、じっと好美を見つめてふるふると首を横に振った。
好美の目から涙が零れる。
 

 
「どうして……?」
 

「もう、先生には大事な人を裏切らないで欲しい。けじめを付けるんだ」
 

「っ……」
 

 
恋をした。
教師になって、まるで自分が高校生の頃のように。よく表現される「甘酸っぱい」という言葉が似つかわしい。
 

西日も傾き始めている。
 

 
「もう、何もしちゃ駄目だ。先生はもう俺と、何の関係もない」
 

「……」
 

「……もう帰るよ。先生もちゃんと泣きやんで、泣いたのが誰にもバレないように、帰るんだ」
 

 
悠平は好美の頭を撫でて立ち上がった。
好美は呆然としたまま、どこか一点を見つめている。
悠平は黙って宿直室を出ると、鞄を引っ掴んで走り出した。
 

好美は、暫くして声を上げ、再び泣き始めた。
 

恋をした。
まるで、自分が高校生であるかのように。
この恋は、誰にも秘密。
 

 
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