電話越しの君へ
「仕方ないんすよ」
「……何がだ」
いつも見せない厳しい表情が可笑しくて、笑ったままゆっくりと答えた。
「……じゃあ、先生は好きな女と寝られる機会が目の前にあったとき、それをみすみす逃せるんすか?」
「…………………は?」
厳しい表情を一変、明らかに戸惑った顔にまた笑いそうになる。
「そしたら抱かないと男じゃないっすよね」
「……おい、すぎも―…」
「同じことなんすよ」
遮るように告げ、俺は睨むように前を見据えた。
「好きな女とあと一年一緒にいられるチャンス、みすみす逃してたまるかよ」
「………っ
杉本、まさかお前…」
「もういいっすか、教室戻って」
津久井が黙ったのを肯定と勝手に受け取り、教室の扉に手をかけた瞬間「ちょっと待て」と津久井が言った。
「……まだ、なんかあるんすか」
「………いや」
くぐもる津久井を怪訝そうに見つめると、諦めたように眼鏡を外し、津久井は真っ直ぐ俺を見た。
「……抱く、だろうな。それは」
諦めたように苦笑する担任を、目を見開いて見つめてしまったあと、ふと気付く。
…――なんだよ、
こいつ好きな女いんのか。
そしてきっとそれは片想い。
「……ほら、行け」
既に眼鏡をかけ直して、照れたように苦笑いした男に俺も笑って、さんきゅ、と呟いた。
そしてふと思いついて、振り返る。
「そういや、うちのクラスの仲間クン、あいつ万引きしてるぜ」
「………はっ!?」