空白の時間=友情>愛情

秘密

どれほどの時間が経っただろう…翼は深く澄んだ瞳でオレを見つめながら、口を開いた。

「先生、ごめんなさい。やっぱり今は言えません。でも、兄は生きてると思います。あの…先生…ボクは…先生はすごくいい人だと思います。少し待ってくれないかな」

オレは大きくうなずいた。

「なぁ、広沢。先生とお兄さんは親友だった。お兄さんが行方不明になって、先生もずいぶん苦しんだ。何かオレにできることはなかったのか…オレはSOSのサインを見落としていたんじゃないか…」

オレは大きく深呼吸して続けた。

「だからお前が、お兄さんが生きてる!と言ったときは嬉しかった。何か知っていることがあるなら、オレに言ってくれ。決してひとりで悩むなよ。親友といいながらオレは…お兄さんが何か悩んでいるのを気づいていたが、何もしてやれなかった…」

「先生!大丈夫です。少し待っててください」

「そうか、わかった」

「今日は帰ります!」



自転車にまたがり、翼はオレにお辞儀して微笑んだ。

「広田先生は優しいね」



賢二…。

次第に小さくなる翼の後ろ姿を見送りながら、そこに賢二の幻影を見た。

夕闇は夜陰に変わろうとしていた―。
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