ひねもす月
すぐ近くでへばりつくようにケージを覗き込んでいた小学生に習い、その場にしゃがみこんで中の子犬の様子を窺った。
……かと思えば、ミナは、高い位置のケージを覗くために、やっぱり子どものように、ぴょんぴょんとジャンプをする。


「へぇ。今時、犬用の服もすごい種類があるんだぁ」


ふと背後を振り返ると、ずらりと並んだ色とりどりの小さな服たち。

Tシャツやらバンダナやらはよく見かけるけれど、なんとタキシードにドレスまである。


そこらの人間よりよっぽどお洒落だな。


思って、カナタはふと腕時計を見た。

そういえば、ミナの服も選ぶのだった。
つい長居してしまったけれど、まだ今なら、帰りのバスまでに時間がある。


「ミナ、服、見に行かない?」


色気より食い気、もとい、服より動物。
なかなか気乗りしない様子のミナをなんとかなだめすかし、衣料品を扱う階に上がった。

……問題は、説得の勢いで、「今度本物の水族館に連れて行く」と約束してしまったこと。
連れて行きたい想いがあるからこそ口が滑ってしまったのだけれど……さっきまでの気持ちはどこへやら、一転不安がこみあげてきた。


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