ひねもす月
我ながら、困った意気地ナシだ。


「好きな服、選んでごらん」


それでも、悩み事はひとまず置いておいて、目先の目的を遂げなくてはならない。


「……女物って……こんなにあるんだ……?」


ワンフロア全部、見渡す限りが女性用衣料。
なんだか、気圧されてしまう。

本当はこんな量販店じゃなくて、もっと若向けのファッションビルとかでアパレルブランドでも見ればイイのだろうが……女物の服を見るなんてただでさえ気恥ずかしいのだから、そんな勇気、到底出そうにない。

カナタにはこの場所が精一杯、だ。


「サイズとかって、どうなんだろうな」


手当たり次第触ってみているミナの後ろを歩きながら、そういえば、と気付く。

7号とか9号とか。
カナタには馴染みのない表示が目についた。

ミナがそんなものを意識しているとは思えないし……店員に聞いてみるべきだろうか。


「あっれぇ?」


迷っていると、突如、すぐ横から声がした。


「スドウだぁ?」


素っ頓狂な女の声。

名字を呼ばれ、カナタもびっくりして振り向いた。


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