風に揺蕩う物語
ヒューゴにそう言われた父親は、勢いよく頭を下げた。今度は少し嬉しそうな表情をしながら父親の感謝の気持ちを受け止めたヒューゴだった。



「先ほどの子供、父親と手を繋ぎながら仲良く帰られてました」

「そっか。それは良かった…」

静けさを取り戻した室内で、黒い使用人の服を着た女性がヒューゴにそう話しかけた。

瑠璃色の長髪を髪留めで留め、その上から白い絹で作られたリボンを着けており、腰には白いスカーフを巻いているその姿は、一般的な使用人の衣装だ。年齢は20歳で、ヒューゴより少し上である。

「それとヒューゴ様。差し出がましいとは思いますが、あのような振る舞いは少し控えた方がよろしいかと…シャオシール家の当主の名に傷が付きます。貴族としての格式をお持ちください」

「分かっているよシャロン。でもあの親子からお金を毟り取るのが貴族の仕事ではないと僕は思う…それに豪族上がりの貴族である当家が、偉そうに振舞うのはちょっとね」

凛々しい表情を崩さないシャオシール家の使用人の長であるシャロンは、ヒューゴよりも貴族の様な振る舞いをしている。

シャオシール家は、エストール王国で中流豪族の部類に入る家柄だった。

シャオシール家は代々、王族騎士と呼ばれるエリートに配属される武家で、シャオシール家に生まれる男子は、若くして騎士道の心得を学び、15歳を過ぎた頃からは王国軍の辺境警備中隊長や中央司令隊長補佐などを経由し、王族の身の安全を守る王族騎士に所属する事になる。

王族騎士とは、エストール王家の国王や嫡男だけが直接指令を下す事が出来る騎士で、エストール王に謁見出来る数少ない騎士でもある。

そんな家柄であったシャオシール家だが、ヒューゴの父君であるディオス・シャオシールの功績のおかげで、晴れて貴族の仲間入りを果たす事になる。

そして今現在。シャオシール家は、王国軍の陸軍大将の一つでもある騎馬大将を任される事が決まっているのだった。

「謙虚な気持ちをお持ちになるのは、ヒューゴ様の良い所だと思いますが、ヒューゴ様は当家の当主でございます。リオナス様の立場も考えて行動をしていただかないと…」

「まぁ…そうだね。シャロンの言う通りだよ」

リオナスとはヒューゴの弟の名だ。年齢は17歳でヒューゴの一つ年齢は下である。


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